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民泊のAirbnbが目指す“旅行の民主化”とその先 - 共同創業者が語る日本市場

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●日本に3.5万件の物件、TSUTAYAとも連携
カーシェアリング、Uber、クラウドソーシング、クラウドファンディング……最近よく耳にするこうした言葉は、全て一般生活者がビジネスに参加する「シェアリングエコノミー(共有型経済)」と呼ばれるビジネスモデル。近年、世界的にその規模は拡大し、日本国内でも2018年には462億円規模(矢野経済研究所調べ)の市場にまで成長すると言われている。

そうしたシェアリングエコノミーの市場を世界に生み出したパイオニアのひとつが、一般個人の住宅を観光客などに宿泊施設として提供するホームシェアリング(民泊)サービスの「Airbnb」だ。グローバルでは191カ国3万4000都市に200万の物件を展開し、これまでに8000万人が利用。日本国内でも3万5000の物件を提供し、最近ではTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブとマーケティング活動などにおけるパートナーシップ契約を締結。Airbnbをはじめとする民泊の市場拡大を受けて、行政も法整備や規制緩和を検討している状況だ。

世界的な市場の創出を実現したAirbnbは、こうしたホームシェアリングが拡大する先にどのようなビジョンを描き、そしてシェアリングエコノミーの未来をどのように見据えているのだろうか。来日したAirbnb共同創業者のネイサン・ブレチャージク氏へのインタビューを基にレポートする。

○日本で逼迫する宿泊施設の需給、民泊が解決策に?

日本におけるAirbnbのビジネス展開について、ブレチャージク氏は対前年比500%の成長を遂げているデータを挙げたうえで、「世界的に見ても、日本が最も高い成長を遂げている」と説明する。その背景にあるのは、国が全力を挙げて取り組んでいる訪日外国人観光客の増加によるインバウンド需要の拡大だ。

ブレチャージク氏は、こうしたインバウンド需要増加の動きはAirbnbの普及拡大にとっても大きなチャンスだとみている。「東京オリンピックが開催される2020年には、訪日外国人観光客が4000万人になるといわれている。日本における観光産業全体の成長とともに、Airbnbの著しい成長は続くだろう。訪日外国人観光客の急増によって観光客を受け入れる(ホテルなどの)キャパシティが大きな課題であることは明白であり、それに対してAirbnbが解決策を提案するというのは自然な流れではないか」とブレチャージク氏。観光客の増加に伴う宿泊施設の枯渇に対して、ホームシェアリングが価値あるソリューションになるというのだ。

●Airbnbが目指す旅行の民主化とは
○旅行ビジネスの扉が個人にも開かれる

しかし、ブレチャージク氏が考えるAirbnbのビジョンは、ホテルなど既存の宿泊施設に置き換わる存在になることではない。同氏はそれを「旅行の民主化」「地域体験の創出」という2つのキーワードで説明している。

「民主化」というキーワードは、テクノロジーのイノベーションによく使われる言葉で、これまで企業が商品・サービスの企画・提供を主導してきたマーケットに個人が参加できるようになる場合に、「市場が民主化する」といわれる。企業がコントロールしてきた市場に、本来は利用者である個人が参加することで、そこに自由と多様性が生まれるのだ。出版社が主導してきた出版事業に、電子書籍の発行・販売という形で個人が市場参入できるようになったり、放送会社が主導してきた放送事業に対して、個人が自由にコンテンツを制作して配信して広告収入を得るYouTuberが登場したりした例が解りやすい。

ブレチャージク氏は、Airbnbのコンセプトについて、「最もエキサイティングなのは、以前まで企業にしかできなかった観光産業のエコシステムに一般の人が参加できること。“旅行の民主化”だ」と語る。つまり、観光産業に一般個人によるホームシェアリングが参入することによって市場に多様性が生まれ、旅行者にとっては選択肢が増加し、また住宅を提供するホストにとっては、自身の資産を活かした新たな収益機会の創出に繋がるのだ。「Airbnbによる“旅行の民主化”が進めば、宿泊以外の旅行ビジネスにも個人が参加できるチャンスが生まれるのではないか」(ブレチャージク氏)。

○民泊の価値は地域体験にあり

では、Airbnbによる“旅行の民主化”は、旅行客やホストにどのような価値をもたらすのか。ブレチャージク氏は、「Airbnbが重視しているのは、(宿泊した)現地での体験。地域の良さをどのように地元の人たちと共有できるのか。そしてそれを、システムがどのようにサポートできるかを常に考えている。それは、田舎の小さい町でも、大都市でも変わらない。現地の人と触れ合いローカルなカルチャーを体験できることが、Airbnbの最も大きな価値だ」と語る。

Airbnbの利用者が宿泊するのは、街中にある宿泊施設ではなく住宅街の中にある一般個人の住居だ。地域に密着した宿泊環境を利用することを通じて、従来の旅行では見ることができない地域の表情に触れ、地元の人と交流することで従来の旅行ではできない体験が生まれると考えているのだ。この発想は、観光によって地域振興を目指したい地域や、過疎化が進む地域への流入人口を増やしたい地域にとっては、追い風となる考え方ではないだろうか。

シェアリングエコノミーを地域振興に活用した例では、個人が自家用車に利用客を乗せて旅客サービスを提供するUberが、富山県南砺市と協定を締結し、公共交通に課題を抱える地域においてボランティア市民ドライバーの自家用車を利用したシェアリング交通の実証実験を開始したケースがある。同じように、地域の観光振興を目的としてAirbnbの活用を積極的に推進していく自治体が登場する可能性も、今後は十分に考えられるのだ。

「Airbnbによって、小さな村、今までホテルが存在していなかった場所にもアクセスできるようになった。そこで地元の人と交流し、もてなしを受けることによって新しい経験が生まれる。日本国内の市場も今後更に成長するのではないか」(ブレチャージク氏)。

●民泊を成立させるのは“人の言葉”に裏打ちされた信頼
ここまでは、Airbnbがもたらす様々な可能性について説明してきたが、消費者の中には、一般個人の住居に宿泊するということに対する安全面での不安も少なくない。この点について、ブレチャージク氏はどのように考えているのだろうか。

ブレチャージク氏は、「私たちの新しいアイデアを世の中に受け入れてもらうために最も重要なのは“信頼”だ。そのために、スタッフは絶え間ない努力を続け、高品質なサービスを提供するためにテクノロジーを活用している。常に入ってくるデータを基に、どうすれば良い体験を創出し、悪質なユーザーを排除できるかという課題に取り組み続けている。おかげで、これまで世界で8000万人以上というAirbnbユーザーのほとんどが、ポジティブな体験をしている。Airbnbが世界中で信頼を得られているというのは、数字が物語っているのではないか」と語る。

シェアリングエコノミーはお互いを知らない個人同士で取引を行うことを前提としたサービスだ。そこで信頼性を担保するためには、Airbnbのようなプラットフォームを提供する事業者が取引の安全を担保したシステムを開発し、利用者の動向に合わせて常にブラッシュアップしていく必要がある。その姿勢を貫き通せるか否かで、サービスが世の中に受け入れられるか否かが判断されると言っても過言ではないだろう。そして、そのシステムによって生まれたポジティブな体験が、新たな利用者を生み出す原動力にもなるのだ。「Airbnbの信頼性を支えるのは人の言葉。Airbnbによって生まれたポジティブな経験やストーリーをシェアすることだ」(ブレチャージク氏)。

ブレチャージク氏のこの考えは、シェアリングエコノミーの未来にとっても非常に重要な示唆だともいえる。もしも今後、個人同士の取引にその意義さえ問われるような致命的なインシデントが起これば、世の中のシェアリングエコノミーに対する信頼は失われ、市場そのものの未来が断たれることになる。Airbnbが「信頼」という言葉に込めた思いは、非常に重いものなのだ。

ブレチャージク氏は、「260億ドルと言われるシェアリングエコノミーの市場には、まだまだ成長の可能性がある。その中では、様々なプレイヤーがこの市場に参加しようとトライし、隆盛と淘汰を繰り返していくだろう。そこで生き残るためには、世の中のパーソナルなニーズに合ったシステムであり、世の中の信頼を得られるシステムであり、そのシステムをスムーズに提供できるテクノロジーであることが求められる」と語る。

イノベーションは、一般的には世の中の課題を革新的なテクノロジーで解決するものと解釈されるが、実際には世の中にその考えが受け入れられ、信頼されてはじめてそれが「イノベーション」だと評価される。ホームシェアリングが真のイノベーションとして確固たる地位を築くために、Airbnbの挑戦はまだまだ終わらない。

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