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「仮面ライダー」らしさとは何か--シリーズ屈指の異色作『仮面ライダー響鬼』が突き詰めた特撮ヒーロー作品のリアリティ

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●特撮ヒーロー作品の「完全新生」を目指す
現在、好評放送中の平成仮面ライダー20作記念作品『仮面ライダージオウ』(テレビ朝日系全国ネット)では、50年後の未来世界で「最低最悪の魔王」として君臨するオーマジオウになる運命を知らされた高校生・常磐ソウゴ(演:奥野壮)が、運命に立ち向かい「最高最善の王」をめざすべく、仮面ライダージオウに変身するという物語が描かれている。

ソウゴは一見どこにでもいる平凡な高校生のように見えるが、将来の夢が「王様になる」ことだと公言し、卒業後の進路についても「王様」以外のことを考えていないという、とにかくスケールの大きい"非凡"な人物だった。歴代の平成仮面ライダーの"時代"をめぐり、仮面ライダーの能力を備えたライドウォッチを手に入れていくソウゴ。これからの彼を待ち受ける運命とは……?

ソウゴのように、少年時代から明確に将来の「なりたいこと」を持っている人間は、どのようなことであれ素晴らしい。しかし、たいていの少年たちは学校生活を送りながら、これからの自分に何ができるのか、何をやりたいのかをなかなか見つけ出せずに、思い悩んだりするのではないだろうか。『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』の公開(12月22日)を記念し、平成仮面ライダーシリーズを振り返る企画の第6回として取り上げる『仮面ライダー響鬼』は、そんな多感で繊細な"少年"の目線から"ヒーロー"を追いかけるという、異色の特撮ヒーロードラマが志向された。

『仮面ライダー響鬼』は、2005年1月30日から2006年1月22日まで、テレビ朝日系で全48話を放送した特撮テレビドラマである。前作の『仮面ライダー剣(ブレイド)』(2004年)が、『仮面ライダークウガ』(2000年)から『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)までの「平成仮面ライダーシリーズ」の流れを強く意識しつつ、その上で新機軸を盛り込んで作られた作品なのに対し、『響鬼』では仮面ライダーのみならず、特撮ヒーロー作品の「完全新生」をスローガンとし、新しいヒーローをまったく白紙の状態から作り出そうという意欲に満ち溢れた作品となっている。"新しいヒーローを生み出したい"という思いで作られた作品としては、平成仮面ライダーシリーズの第1作となった『仮面ライダークウガ』(2000年)が先に存在するが、『仮面ライダー響鬼』では『クウガ』以上に「ヒーローと怪人の存在する世界」にリアリティを持たせるべく、大胆ともいえる意欲的な設定を多く打ち出した。

本作のヒーロー・仮面ライダー響鬼は、劇中では「仮面ライダー」とは呼ばれず、その姿も歴代の仮面ライダーとは大幅にイメージの異なるスタイルである。その名のとおり「鬼」をモチーフにしており、頭に2本の角が生えている響鬼のマスクには、従来の仮面ライダーに多く見られる「大きな目」のような、顔を構成するパーツがひとつも存在しない。代わりに歌舞伎の「隈取り」を思わせる模様が配置されることによって、顔のように見えるという、かつてない個性的なデザインワークが行われた。武骨でありながら極限までスリムに造形されたボディについても、これまでにないヒーロー像を目指すべく、光の当たり方や角度によって色の見え方が変わる「マジョーラ」という塗料を初めて採用し、鮮烈な印象を残している。

響鬼の独自性は外見だけではない。人間を襲う怪物「魔化魍」に対しては、ベルトに備わっている音撃鼓「火炎鼓」を相手の体に取りつけ、2本の音撃棒「烈火」で叩いて「清めの音」=「音撃」を発し、相手を粉砕する。従来の平成仮面ライダーとは違い、ベルトを変身のために用いるのではない、という点も斬新であった。そもそも、響鬼の変身は変身音叉「音角」によって行われ、仮面ライダーが変身する際に不可欠だった「変身」というかけ声もない。「仮面ライダー」でありながら、どこまで「仮面ライダー的要素」を削り取ることができるか、そして要素を削りながらも「仮面ライダー」らしく見えるポイントとは何なのか……という、仮面ライダーの"極意"を探った作品、それが平成仮面ライダーシリーズにおける『仮面ライダー響鬼』の立ち位置ではないだろうか。

高校受験を間近に控えた中学三年生・安達明日夢(演:栩原楽人)は、屋久島に向かうフェリーの中で不思議な魅力を放つ青年・ヒビキ(演:細川茂樹)に出会った。その後、島の奥深い場所でヒビキと再会した明日夢は、怪物「魔化魍」を育てる童子(演:村田充)と姫(演:芦名星)に戦いを挑む異形の戦士「鬼」の姿を目撃する……。

1000年もの樹齢を持つ"屋久杉"の神秘的ともいえるロケーションや、戦闘時に鳴り響く和太鼓の音、そして数々のヒット曲を持つ歌謡界の大御所・布施明が情感たっぷりに歌い上げる主題歌「少年よ」の素晴らしさなど、一之巻「響く鬼」のもたらしたインパクトの大きさは、放送開始から10数年を経た現在においても変わることがない。とにかく、今までのヒーロー作品からの脱却をはかり、『響鬼』という独自の作品世界を築こうとする工夫と努力が随所に見られたのだ。

一之巻、二之巻で示されているように、本作は明日夢をドラマの中心に置き、彼が憧れる"大人"であるヒビキや、周辺の人々との関係性を努めてリアルに描いていく展開が基本となっている。ヒビキ役には、当時すでに数々のテレビドラマに出演し、確かな実績を備えた俳優の細川茂樹を起用。当時の細川は30代前半であり「平成仮面ライダー」のヒーロー(主役)としては異例の「おじさん仮面ライダー」として、大いに世間の話題を集めた。

●変身したヒーローの服はどうなるのか問題に回答

細川は『響鬼』と同じ時期、NHK大河ドラマ『義経』に出演(平重衡役)するなど多忙であったが、子どものころに「仮面ライダー」シリーズが好きで観ていた思い出を大切にしており、『響鬼』という作品の存在をより多くの人に知ってほしいという気持ちが強く、各種バラエティ番組の出演も積極的に引き受けていたという。身体を鍛え抜き、「魔化魍」を打ち砕く歴戦の勇士でありながら、機械オンチで携帯電話やパソコンが苦手、そして番組開始当初は自動車やバイクをうまく扱えないという、数多くの長所と短所をあわせ持つ魅力的なヒビキの人物像は、細川のパーソナリティがあってこそ輝くことができたと断言できる。

ヒビキが属する民間組織「猛士(たけし)」は日本全国に支部を持つ巨大な集団で、「鬼」もヒビキ以外に多数の者がおり、いずれも人知れず、「魔化魍」の脅威から人間を守って戦っている。明日夢が深く関わっていくのは、猛士・関東支部の本拠地である甘味処「たちばな」の面々。立花勢地郎(演:下條アトム)やその娘の香須美(演:蒲生麻由)、日菜佳(演:神戸みゆき)たちは、ヒビキやイブキ(演:渋江譲二)、トドロキ(演:川口真五)といった「鬼」たちを支援するべく活動している。当初は勢地郎たちの真の活動を知らなかった明日夢だが、高校入学後に「たちばな」でアルバイトをするようになってから、鬼をサポートする猛士の存在をだんだんと理解していった。

『響鬼』で特に目をひくのは、「鬼」であるヒビキやイブキ、トドロキが、暗躍する「魔化魍」を見つけ出し、戦いの場に赴くまでの「段取り」のリアリティだ。まずは猛士のメンバー・滝澤みどり(演:梅宮万紗子)が開発に携わったサポートモンスター・ディスクアニマル(アカネダカ、ルリオオカミ、リョクオオザルなど、動物の姿に変形する円盤型の式神)が偵察・調査を行い、「魔化魍」の存在をキャッチした"当たり"の情報を「鬼」に届ける。その後、「鬼」とサポートメンバーが車やバイクを使って現地へと赴き、現れた魔化魍と戦う……というのが、大まかな流れである。

ヒビキたちは肉体を鍛え抜くことで「鬼」=音撃戦士へと"変身"するのだが、変身の際に衣服がすべて燃えて消滅してしまうので、音撃によって「魔化魍」を退治した後は新しく着る衣服が必要になる。それゆえ、「鬼」たちの身の周りをサポートする猛士メンバーの存在は重要だといえる。1回の変身で「鬼」の体力はかなり消耗するため、猛士では出動のシフト表を組み、出現する「魔化魍」の特性に応じた音撃を行う「鬼」たちを向かわせるようローテーションに気を配っている。これまでの特撮ヒーロー作品ではあまり言及されることのなかった「ヒーローに変身したらそれまで着ていた服はどうなるのか」という問題に明確な回答を示し、「鬼」の行動すべてにリアルなディテールを与えた本作のこだわり演出には、うならされることが多かった。

また、「魔化魍」との長い戦いの歴史を持つ猛士だけに、「鬼」の中には弟子を取って自分の技を次世代へと受け継いでいく者も多く存在する。この"師匠と弟子"の関係性を描くことも『響鬼』という作品の"リアル"を語る上で重要な設定である。イブキ=仮面ライダー威吹鬼は天美あきら(演:秋山依里/放送当時は秋山奈々)という少女を弟子として迎え、共に厳しい修行を続けている。トドロキ=仮面ライダー轟鬼にはザンキ=仮面ライダー斬鬼(演:松田賢二)という優しさと厳しさを備えた師匠がおり、トドロキが鬼として独り立ちするまでは2人で魔化魍と戦っていた。イブキとあきら、ザンキとトドロキの関係を見て、明日夢がヒビキにどのような念を抱くのか(自分も弟子=鬼になりたいのか、それともヒビキとは別な道を行きたいのか)という心の動きも、繊細に描かれていた。

物語は、魔化魍と戦って"人助け"を行う鬼たちの活躍を描くと同時に、明日夢が学校や「たちばな」店内でさまざまな経験を積み、少しずつ成長していく様子を緻密な日常描写を織り込みながら進めていく。

三十之巻「鍛える予感」からは新展開となり、明日夢のライバルとして桐矢京介(演:中村優一)が登場。何かと自分と張りあい、勝ちたがろうとする京介に引っ張られる形で、明日夢は京介と共にヒビキの弟子となって身体を鍛える修行を始める。一方で、大量の「魔化魍」が出現する「オロチ」現象が勃発し、関東の「鬼」たちもさすがに苦戦を強いられる。大量発生した「魔化魍」との戦いによって再起不能になったトドロキに対し、かつての師・ザンキがとった行動とは? オロチを鎮めるための儀式を執り行う任務を帯びたイブキは、その重圧に耐えられるのか? そして、明日夢はヒビキの弟子となり、このまま「鬼」を目指すのか……? 最終之巻(第48話)「明日なる夢」では、オロチ事件から1年が過ぎ、明日夢がどのような人間的成長を遂げたかが描かれる。美しい夕景を見つめながらヒビキが明日夢にどんな言葉をかけたのか、それはぜひ映像作品にてお確かめいただきたい。『仮面ライダー響鬼』は特撮ヒーロー作品における"リアリティ"を根底から見つめ直すと共に、人間ひとりひとりが他者との関わり、つながりによってさまざまに変化していく様子を繊細かつ鮮やかに描き出す、良質のドラマを作り上げようと努力を続けた作品だったといえるだろう。

次回の平成仮面ライダーシリーズ振り返り企画は、第7作目にして『仮面ライダー』誕生35周年記念作品『仮面ライダーカブト』(2006年)を取り上げる。奇抜さという意味では振り切るだけ振り切った感のある『仮面ライダー響鬼』の後を受けた『カブト』では、仮面ライダーファンの心を惹きつけるために、どのようなキャラクター作り、そしてドラマ作りを行ったのか、その"料理"の仕方を追いかけてみたい。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日より公開される。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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