
2012年の三池崇史監督作『愛と誠』で映画初主演を務めた女優・武井咲(22)が、デビュー10周年を迎えた今年、人気マンガを原作とした『テラフォーマーズ』(4月29日公開)で三池監督と再びタッグを組んだ。武井演じる奈々緒は、ある生物が人型に進化した"


三池監督との再会となる作品で、この"すぐ攻撃されてしまう衝撃的なヒロイン"とどのように向き合ったのか。2015年末にその年の自分を「穏」という一文字で、そして2014年5月に放送された『情熱大陸』(MBS・TBS系)では女優業を「難しい仕事」と表現していた武井。「最高の環境」と語る三池組を通して、女優としての変化と今の姿に焦点を当てる。
――ヒロインという重要な役どころですが、すぐに

そうですね(笑)。原作でも、ヒロインなのにわずか数ページで首を折られてしまいます。その衝撃は誰もが感じたことだったのではないでしょうか。実写化すると聞いた時に「あのシーンは必ずある」という心構えはありました。実際の撮影では、何回も撮り直して、緻密に進めていったシーンだったと思います。
――首を折られた直後の「あっ……」という声がなんとも(笑)。
あれは、私の想像でしかないんですよね(笑)。完成した映像を見ると、やっぱりすごいインパクトでした。

全体を通して観ても、しっかりエンターテイメント作に仕上がっていると思います。結構コアな虫がテーマになっていますが、変異する時に虫の説明が入るところなんかは、すごく分かりやすくてかっこいい。女性も楽しめる作品に仕上がってるんじゃないかなと思います。
本格的な特殊メイクも初めて挑戦しました。これまでケガを再現したことはありましたが、まさか蛾になるなんて(笑)。半日以上メイクしていただいて、そこからの撮影だったので、体力的には大変でしたがとても楽しかったです。
――三池崇史監督作品では、2012年の『愛と誠』でもヒロインとして出演しましたね。世界観は全く違いますが、共通する部分はありましたか?
『愛と誠』で三池さんとご一緒した時のことは、今でも思い出します。とても想像力豊かな方で、

とにかくどんなことでも「やってみる」。1つのことにとらわれない、そんな姿勢からアイデアがどんどん生まれます。それは「試されている」とも言えますし、私にとってとてもやりがいがあります。台本に書いてあることだけでなく、追加されていくアイデアでキャラクターを演じることができるのは、とても幸せです。
――『愛と誠』は映画の出演経験が浅い頃だったと思います。そこでの自由度は、ハードルの高さにつながりませんか?
今振り返っても、「楽しかったなぁ」という印象です。三池さんから「これも言ってみよう」と提案があって、「台本にないですけど大丈夫ですか」と私が心配していると、「卵2つ入れたほうが贅沢じゃない?」って(笑)。そんなやりとりから、いつも面白いアイデアがポンポン生まれる。そこはやっぱり「楽しい」と言えます。
――『テラフォーマーズ』でも?
火星で変異して戦う。その設定はものすごく面白いんですけど、生身の人間が演じると不可能なところが必ず出てくる。でも、三池さんは「やってみないと分からないからやってみよう!」という考えで、「観たことがないものを作ろう」というパワー、勢いが現場にはありました。多くのスタッフさんを引き連れて、三池さんを筆頭に同じ方向を向いて作り上げている感じが毎回感じられるので、現場がすごく楽しいんですよ。
●「人間らしい生活」と「鮮度」の女優論
――演出面で以前と変化は?
あまり細かくは言われませんが、自分がどうしようかなと思っている時は、三池さんも同じように思っていたりする。ちょっとした違和感がある時に、「もう1回やってみよう」と言ってくれるんです。その信頼感が、三池さんとの間には自然と生まれるんですよね。
奈々緒は二面性がある役柄で、悲しい過去がありながら強がっている。自分としてはすごく強いセリフが多かったんですが、どういう言い方がいいのか迷っていたら監督もそのことを言ってくれました。これだけの大作で考えないといけないことが山程あっても、そういう感情、セリフの1つでも敏感に感じ取ってアイデアを出してくれる。そして、何度でもやらせてくれる。それはやっぱり最高の環境だと思います。
――以前、『情熱大陸』(2014年5月)に出演された時も、撮影現場で監督と意見交換するシーンがありました。現場で常に心がけていることなんですか。
そうですね。納得できないまま演じることの方が難しい。理解できないことをどういう言い方にしたらいいんだろうとか。映像を通してみると印象が全然違っていたりするので、気になることがあったら直接聞きに行ってアドバイスしてもらったり。あとは監督の顔を見たり(笑)。
これは最初からではなくて、徐々にできていったことのような気がします。最初は恥ずかしかったり、私なんかが聞いちゃいけないような遠慮みたいな気持ちがあったんですが、分からないままやる方が絶対に後悔する。なんとか食らいついていこう。そんな気持ちから、分からないことがあったら走って聞きに行くようなスタイルになったんだと思います(笑)。
――所属事務所が毎年開催している晴れ着撮影会を毎年取材しているんですが、昨年12月の武井さんが特に印象的でした。その年の漢字一文字を聞かれ、答えたのは「穏」。壇上でもまるで仏様のような雰囲気で、本当に良い年を過ごされたんだなと感じました。
本当ですか(笑)。
――「穏」は、演技などにプラスに作用しそうですね。
自分の気持ちが落ち着いてないとお芝居にも影響すると思っています。撮影が続いてスケジュールが詰まってくると行き詰まってしまったり、何かに追われることがどうしても出てくる。でも、自分の時間を持ってバランスがとれてくると、頑張ることができる。そういう意味で、去年は少しゆっくりする時間があったことで自分にも余裕ができて、「人間らしく生活できている自分」を感じることができました。そんな中でお仕事ができるのは、最高なことですね。
――今も「穏」を継続できていますか?
継続していますが、ちょっと忙しくなってきましたね(笑)。ただ、そのバランスを自分がどのようにとるかが大事だと思うので、そのあたりは昔よりはうまくなっていると思います。自宅でオフになる時間もちゃんと作るとか、仕事だけじゃなくて自分の趣味の時間を見つけたり。自分でスケジュールを管理できているような状態は、とても健康的だと思います。
――

そうですね。昔から欲しかったんです。実はまだできていないんですけど、今年はどこかのタイミングで海に行けたらいいなと思います。
――今年はデビュー10周年ですからね(笑)。振り返ってみて、あっという間ですか? それとも長かった?
うーん、「10年か」という感じです(笑)。後半すごく忙しくて、夢見心地がずっと続いていたような感じでした。ただただ楽しい中だと気づかないんですけど、今振り返ると、もうあのスケジュールで仕事はできない(笑)。朝からずっとドラマや映画の撮影で、夜中からはCMの撮影。そして朝からまた撮影。人間らしい生活がずっとできていなかったら、いつかはきっと壊れてしまう。でも、そういう経験をできたことは、今の人間らしい生活の良さを知るためにも必要なことだったと思います。
――『情熱大陸』に出演された際には、女優を「難しい職業」とおっしゃっていました。あれから1年半ぐらいが経ちましたが、今はどのように思っていらっしゃいますか。
やっぱり難しいものですよね。どんどん変わっていく時代だからこそ、最近は「鮮度」が大事だと思います。息を長く続けられる職業でもありますが、世の中のニーズに合わせて自分自身も変わっていかないといけない。でも、合わせすぎるのもよくない。
そして、私は自分の気持ちも大切にしたいので、いつどうなるか私自身も分かりません。拘束されている時間が長いこともありますが、華やかさもあって、とても楽しい。そういう見えない部分で大変なことがすごくたくさんある。それが私の職業だと思います。
■プロフィール
武井咲
1993年12月25日生まれ。

