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●最新設備ではなく、20年以上稼働する既存設備を活用
フランスを代表する企業のSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)。前回は本社ビルを紹介したが、今回はフランス北部ノルマンディ地方に位置するスマートファクトリー「Le Vaudreuil Factory(ル・ヴォードライユ工場)」を紹介する。
○ショーケースと位置づけるル・ヴォードライユ工場
ル・ヴォードライユ工場は1975年に稼働を開始し、従業員360人、延床面積1万4200平方メートルの建屋でビルやデータセンター向け電磁接触器「TeSys D」「TeSys K」「TeSys B」、産業向けインバータ、スターターなどの「ATS 48」「ATV 600/900」「ATV 61/71」「ATV 212」を生産している。
2007年に労働安全衛生マネジメントのOHSAS 18001、2011年にエネルギーマネジメントシステムに関する国際規格であるISO 50001、2015年に品質マネジメントシステムに関する国際規格の同9001、環境マネジメントシステムに関する国際規格である同14001を取得。
同工場の特徴は最新鋭の生産設備を導入し、スマートファクトリー化したわけではなく、2017年9月から既存設備(大半が1990年代に導入したものであり、20年以上稼働している)を活用しつつ、IoTプラットフォーム「EcoStruxure(エコストラクチャ)」などを導入した点だ。これにより、2018年4月に同社が定める審査によりスマートファクトリーとして認定された。
今回、工場を説明・案内したSchneider Electric Smart Factory Communication LeaderのVirginie Rigaudeau氏は「なにをどのように実装し、より高いパフォーマンスを得たかを理解してもらうためのショーケースだ」と同社におけるル・ヴォードライユ工場の位置づけについて説明した。
同工場のスマートファクトリー化にあたり、一度に全体を改善するのではなく、部分的にファーカスしながら、まずは電磁接触器(TeSysシリーズ)の生産ラインから刷新。これは、同製品の生産が工場全体の40%を占めていたほか、自動化のレベルも高かったためだという。その上で知見やノウハウを蓄積し、他製品の生産ラインにも順次展開した。
○最新のツールをあらゆるカ所に
ル・ヴォードライユ工場にはEcoStruxureの第1の層「コネクテッド・デバイス」、第2の層「エッジコントロール」、第3の層「アプリケーション、アナリティクス、サービス」の各ソリューションを導入している。
コネクテッドデバイスは、スマートファクトリー向けの「EcoStruxure Machine」が5製品、データセンター向けの同ITが1製品、電力グリッド向けの同Gridが2製品、電力供給向けの同Powerが2製品、ビル管理向けの同Buildingが3製品、エッジコントロールでは同Machineが2製品、同Powerが1製品、同ITと同Buildingが各1製品、アプリケーション、アナリティクス、サービスはプラント向けの同Plantと同Machineが計3製品、同ITと同Power、同Buildingが各1製品。
オンサイトで得たデータは工場内のデータセンター「Smart Bunker」で40%を、クラウドで60%を管理。また、産業制御ソフトウェア「Claroty」でICS(Industrial Control System:産業用
制御システム)やSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition:プロセス制御と集中監視を行う監視制御システム)、そのほかの制御デバイス、プロトコル、ネットワークなどに対するリスクを可視化し、セキュリティを担保している。
同工場における生産の40%を占めるTeSys Dの生産では、20年以上稼働を続けるコイル巻きの既存設備(スピンドル)に温度センサなどを設置し、故障の予兆検知を行っている。従来は、故障を防ぐために定期メンテナンスに2日間を要していたことから、3~4日間設備が使えないこともあったという。
そのため生産ラインに各種センサを設置し、温度などをデータベース化した上でクラウドに蓄積するとともに分析を行い、平常運転のモデルを構築。これをベースに、異常な温度を検知したときは故障が発生する2時間前に従業員のスマートウォッチにアラートが通知され、故障前のメンテナンスを可能としている。
さらに、生産現場における保守作業の効率化を可能とするソリューション「EcoStruxure Augmented Operator Advisor(シュナイダーARアドバイザー)」を利用。これは、工場やプラントの設備保守などにおける作業支援をARを介して行うというものだ。
タブレットのカメラを通して対象設備をリアルタイムに映し出すことで、実際の設備に仮想オブジェクトやデータなどを重ね合わせ、現場のエンジニアや作業員がマニュアル、指示書、図面をはじめとしたデータをダイレクトに確認しながら作業を行うことができる。そのため、作業手順やノウハウなどを標準化することを可能とし、熟練者の経験や勘に頼らずに訓練を受けていない作業員であっても、容易に作業を行うことができるという。
工場内にはセンサ100個、コネクトされた設備は300~400台、エッジコンピューティングボックス8台、AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車。人間や障害物があると検知しながら移動し、工場内ではカメと呼ばれている)3台などを備え、照明のLED化、排水設備の改善などを施している。
●多様な期待に応えることが理想的な工場の姿
○Industry 4.0をもたらすモデル拠点
ル・ヴォードライユ工場は、多くのデジタルツールを採用したことで保守コストを30%削減すると同時に全体的な機器効率を7%向上させている。その結果、昨年に世界経済フォーラム第12回ニュー・チャンピオン年次総会において、現代の製造業にIndustry 4.0(インダストリー4.0)をもたらした「世界で最も先進的な9つのモデル拠点」の1つに選定された。
さらに、企業におけるデジタル変革を支援するフランスの組織「Alliance Industrie du Futur(AIF)」から、デジタル化により組織的な生産や革新的なプロジェクトを生み出した企業に授与される「Vitrine Industrie du Futur」を受賞している。
既存設備を活用しつつ最新ツールを組み込んでいる点や持続的な改善という観点からも、このような評価を受けるのもうなずける。そして、本社ビルにおける取り組みとコンセプトが一貫していることも特筆すべきことであり、「RE(Renewable Energy)100」や「EP(Energy Productivity)100」への参画が単なるポーズ取りではないことを示すものだろう。
○継続的な改善の必要性
当初、スマートファクトリー化のプロジェクトメンバーはマネージャークラスのフルタイム従業員が7人、自動化技術やエネルギー効率など専門的な知識を持つ4人でスタートしたが、課題もあったようだ。現場レベルの従業員は、新しいテクノロジーへの理解が必要となることから、従業員のマインドセットを変革することが求められた。
そのため、マネージャーの役割は大きく、専門家と従業員のインタフェースになることを心がけたという。専門家はテクノロジーがもたらす影響を把握しているが、従業員は作業が簡便化されなければ納得しないため、マネージャーは
中間の立場として双方に配慮したことで、現在では従業員のスマートファクトリーへの理解は深くなっている。
同社は、インダストリー4.0を進める上で「Mass customization production(カスタマイズ製品の大量生産)」「The energetic transition(力強い移行)」「The growing range of new products(新製品が成長する範囲)」「Innovation and Operational excellence(イノベーションとオペレーショナルエクセレンス)」「The widespread adaption of digital technologies(広範囲にわたるデジタル技術の適用)」の5つをキーポイントとして挙げている。
これは、同社におけるインダストリー4.0をユーザーやパートナーに説明する際、具体的なイメージを提示するとともに、この種のイノベーションや技術の活用法は見えにくいことから、1つ1つのコンセプトを説明し、理解してもらうためだという。
Rigaudeau氏は「最新のツールなしでは、強い産業とは言えない。古い生産設備であろうが、試行錯誤することで最新の設備に置き換えられる。そして、継続的な改善に取り組んでいる。然るべき姿勢とツールを駆使したことで従業員のマインドセットも変革できた」と力を込める。
また、Schneider Electric Plant ManagerのEmmanuel Morice氏は、同社におけるスマートファクトリーの定義について「機械とOT(Operational Technology)、ITが融合して1つになることだ。リーンマネジメントは、産業的なパフォーマンスを達成するための大原則であり、これによりスマートファクトリーが成り立つ。リーンマネジメントとスマートファクトリーの違いとして、スマートファクトリーはリアルタイムに大多数の人がデータにアクセスできる点が挙げられる。これまで対応できなかったことに対し、解決策を与えることを可能としている」と話す。
最後に、理想的な工場の姿に関して問われたMorice氏は「工場が多様な要求を満たし、ダイナミックな改善に継続して取り組めば、顧客、社員、株主、社会の期待は常に変化する。この期待に応えることが理想の工場の姿であり、常にチャレンジしている」と強調していた。